✔ 【2016年1月】トンネル分光から見たTl系銅酸化物の超伝導ギャップ
Tl(タリウム)型の銅酸化物超伝導体はTlBa2Can-1CunOyで表すことが可能であり、様々な枚数のCuO2面を有することが知られています。 BiSr2Can-1CunOyと同様に、nが1から4の結晶構造でnが1増すごとにユニットセル内のCuO2面の枚数が増加します。 超伝導転移温度はこのCuO2面の数に比例しており、n = 3のとき最もTcが高くなることが知られています。
我々は、Tl1223(n = 3)型の多層系銅酸化物超伝導体(Tc = 112 K)の超伝導ギャップをポイント接合型トンネル分光から直接観測しました。
トンネルコンダクタンスの温度依存性からdip構造がTcを境に消失しているため、この構造が超伝導電子対の対形成の起源に関係している直接的な証拠を示しています。 また特徴的なdipがTcの下に存在するのは、それがボソニックに起因するという証拠であると考えられます。 さらに、ゼロバイアス付近でのdipのない窪んだ構造がTc以上でも残っており、これは典型的な擬ギャップの振る舞いだと考えられます。
またdip特性およびトンネルコンダクタンスのdip強度から推定されるΩの温度依存性は、dipがスピン共鳴モードに由来することを示唆しています。 この挙動は、Bi型とTl型の化学的な違いにもかかわらず、Bi2212の結果と一致するため、我々の結果は、磁気相互作用がクーパー対の形成において支配的な要因であると考えています。
本研究をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました。
論文情報
"Characteristic Features of the Mode Energy Estimated from Tunneling Conductance on TlBa2Ca2Cu3O8.5+d"
R. Sekine, S. J. Denholme, A. Tsukada, S. Kawashima, M. Minematsu, T. Inose, S. Mikusu, K. Tokiwa, T. Watanabe, and N. Miyakawa
Journal of the Physical Society of Japan 85, (2016) 024702