◆◆◆ 研究内容 / Research Topics ◆◆◆

ここでは宮川研究室で研究対象としている主な超伝導について解説しています。ここに挙げている以外の物質についても研究を行っています。

  ✔ 銅酸化物超伝導 (Cuprate)

銅酸化物超伝導体は1986年の発見以降、初めて液体窒素温度を越える高い超伝導転移温度を示すことから最も有名な超伝導体の一つです。 超伝導転移温度の最高値はHg系で観測された130 Kであり、圧力をかけると150 Kまで上昇することが知られています。 銅酸化物超伝導体では銅と酸素からなる二次元平面、CuO2面が必ず存在しており、この面が超伝導発現に大きく関わっていると考えられてきました。

私たちの研究室では、ポイント接合型トンネル分光を用いた超伝導ギャップの直接観測を行っており、数多くの銅酸化物超伝導体のギャップ状態を解明してきました。 さらに、FZ法を用いた純良大型単結晶の育成、電気二重層型トランジスタを用いた超伝導化の研究も行っています。

  ✔ 鉄系超伝導 (Iron-based superconductior)

鉄系超伝導体LaFeAsO1-xFxは、2008年に発見された超伝導体であり、銅酸化物に次いで高い超伝導転移温度を示すことが知られています。 超伝導転移温度は最大で55 K程度ですが、FeSeの単一層では100 Kを越える報告もあり、さらなる可能性を有している物質群です。 この物質群の結晶構造は、伝導層と絶縁層からなる層状構造を有しており、この特徴は銅酸化物超伝導体と類似しています。 さらに、銅酸化物とは異なり絶縁層を持たない物質も数多く存在しています。 LaFeAsOで構成される系は11-11(eleven-eleven)系と呼ばれており、絶縁層を持たない122(one-two-two)や11(one-one)系などが存在します。

私たちの研究室では、特に11系に着目した研究を行なっています。またこれまでには鉄系超伝導体の超伝導ギャップをトンネル分光の観点から明らかにしてきました。

  ✔ 硫化ビスマス系超伝導 (BiS2-based superconductor)

硫化ビスマス超伝導体LaO0.5F0.5BiS2は、2012年に発見された超伝導体です。 超伝導転移温度は最大でも10 K程度ですが、鉄系超伝導と類似した積層構造を有することから様々な研究がなされています。 (LaO)+の絶縁層と(BiS2)-の伝導層で構成させる結晶構造を有しており、そのままでは半導体的な振る舞いを示しますが、 キャリアーとしてフッ素(F)をドープすることで金属化し超伝導が発現することが知られています。 F以外にも様々な元素置換で超伝導化することが知られており、チタン(Ti)などの遷移金属でも超伝導が発現します。

この系の電子比熱は非常に小さく、さらに育成可能な単結晶も1.0 mm程度の小さい結晶しか育成できないため、比熱測定が非常に困難であることが知られています。 私たちの研究室では精密比熱装置の開発に取り組んでおり、これまで測定例のなかった比熱測定の観点から、この系の物質の超伝導対称性を初めて明らかにすることに成功しました。

さらに、1 GPa程度の比較的低い圧力印加によって超伝導転移温度が急激に上昇することが知られています。これは圧力による構造相転移のため、急激に電子状態が変化することが原因だと考えられています。 私たちの研究室ではこの特性に着目し、高圧下での物性研究を行い急激に上昇するTcの起源やその超伝導状態を明らかにするための研究を行っています。

  ✔ 遷移金属カルゴゲナイド (TrX superconductor)

エネルギー準位が高い軌道ほど、前後の電子軌道とのエネルギー準位が近くなるため、ほとんど縮退した状態になる場合があり、そのような場合にはパウリの排他率に従わない例外的な電子配置を取ります。 遷移金属ではそのような振る舞いが顕著であることから、様々な価数を持つことが知られています。 さらにAsやTeは、4p軌道のエネルギーが比較的浅く、組み合わせる元素に応じて様々な価数を取ることが知られています。 このように遷移金属とカルゴゲナイドに所属する元素で構成される化合物には、非常に多くの組み合わせが存在します。

私たちの研究室では遷移金属とカルゴゲナイドで構成された化合物に着目し、新しい超伝導体の発見を目指した研究を行っています。 その様な仮定で、HfTe3という超伝導と電荷密度波が共存する興味深い超伝導体を発見することに成功しました。

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◆◆◆ 最新の研究成果 / Recent Topics ◆◆◆

ここでは、宮川研究室で執筆した主な論文について解説をしています。

  ✔ 【2019年9月】 Ce3+/Ce4+の価数揺動を用いたNdOBiS2の新超伝導体の発見

硫化ビスマス系化合物超伝導体は2012年に発見されてから、様々な超伝導体が発見され多くの研究がなされています。 この系の超伝導体はフッ素などを置換した電子キャリアの注入によって超伝導が発現することが知られています。 近年、Ce3+/Ce4+の価数揺動によって生じる価数のズレを用いた電子ドープ(La1-xCexOBiS2など)を用いても超伝導が発現することが報告されています。 そこで我々は、NdOBiS2にCeを置換することでCe3+/Ce4+の価数揺動を用いた電子キャリア注入を用いた超伝導の発現を試みました。 詳しくはこちら。


  ✔ 【2019年4月】 InGaZnO4の大型単結晶の育成とその輸送特性

In、Ga、Zn、Oで構成される透明酸化物半導体はIGZOと呼ばれ、高精細フラットパネルやフレキシブル基板TFT材料として実用化されています。 この化合物の研究はアモルファス・薄膜試料では精力的に行われているが、その一方で基礎物性を理解するために必要不可欠である単結晶試料の報告がほとんどなく、その詳細な物性は明らかではありません。 またZnの蒸気圧が低いために高温での結晶育成が難しく、IGZO自体にも液相が存在しないと考えられていました。 そのような背景の中、我々は9気圧もの高圧雰囲気下におけるFlooding Zone (FZ)法を用いて、InGaZnO4 (IGZO-11)の大型単結晶の育成に初めて成功しました。 詳しくはこちら。


  ✔ 【2019年2月】 硫化ビスマス系化合物超伝導体の比熱測定

様々な研究グループで行われてきた、硫化ビスマス超伝導体LaOBiS2の比熱測定をまとめた論文がJPSJ Special Topicsとして出版されました。 一般的に使用されているPPMSを用いた比熱測定の精度(非常に優秀ではありますが)では難しい、硫化ビスマス超伝導体の単一単結晶を用いた測定の精密比熱測定の詳細な実験方法をまとめてあります。


  ✔ 【2017年12月】 精密比熱測定から見たLaO0.5F0.5BiSSeの超伝導対称性

硫化ビスマス系化合物超伝導体は2012年に発見されてから、精力的に研究がなされています。 様々な測定手法によって超伝導対称性を明らかにする研究が行われていますが、物性研究において最も重要な物理量の一つである比熱測定はほとんど行われていませんでした。 その理由として考えられるのは、電子比熱が非常に小さく、さらに単結晶が1 mg程度と非常に小さいことから正確な測定が困難である点が挙げられます。 そこで我々は、非常に小さな結晶・比熱を有する物質でも精密な比熱測定が可能な装置を開発することによって、比熱測定の観点から単一単結晶を用いたLaO0.5F0.5BiSSeの超伝導対称性を初めて明らかにしました。 詳しくはこちら。


  ✔ 【2017年3月】 HfTe3で共存する超伝導と電荷密度波

電荷密度波(Charge Density Wave, CDW)を形成した際にはフェルミ面にギャップが出現するため、一般的に超伝導とCDWは互いに共存しません。 ZrTe3は図1に示すようにb軸方向に一次元鎖を有し、q = (1/14, 0, 1/3)のネスティングベクトルを有するCDWがT* = 63 Kで実現することが知られています。 さらに、Tc = 2 Kで超伝導転移するため超伝導とCDWの関係性について興味深い物性を示すことから盛んに研究がなされています。 我々はZrを同族元素であるHfに変えたHfTe3の多結晶試料においてCDWと超伝導が同時に発現していることを発見しました。 詳しくはこちら。


  ✔ 【2016年1月】 トンネル分光から見たTl系銅酸化物の超伝導ギャップ

Tl(タリウム)型の銅酸化物超伝導体はTlBa2Can-1CunOyで表すことが可能であり、様々な枚数のCuO2面を有することが知られています。 BiSr2Can-1CunOyと同様に、nが1から4の結晶構造でnが1増すごとにユニットセル内のCuO2面の枚数が増加します。 超伝導転移温度はこのCuO2面の数に比例しており、n = 3のとき最もTcが高くなることが知られています。 我々は、Tl1223(n = 3)型の多層系銅酸化物超伝導体(Tc = 112 K)の超伝導ギャップをポイント接合型トンネル分光から直接観測しました。 詳しくはこちら。


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