✔ 銅酸化物超伝導 (Cuprate)
銅酸化物超伝導体は1986年の発見以降、初めて液体窒素温度を越える高い超伝導転移温度を示すことから最も有名な超伝導体の一つです。 超伝導転移温度の最高値はHg系で観測された130 Kであり、圧力をかけると150 Kまで上昇することが知られています。 銅酸化物超伝導体では銅と酸素からなる二次元平面、CuO2面が必ず存在しており、この面が超伝導発現に大きく関わっていると考えられてきました。
私たちの研究室では、ポイント接合型トンネル分光を用いた超伝導ギャップの直接観測を行っており、数多くの銅酸化物超伝導体のギャップ状態を解明してきました。 さらに、FZ法を用いた純良大型単結晶の育成、電気二重層型トランジスタを用いた超伝導化の研究も行っています。
✔ 鉄系超伝導 (Iron-based superconductior)
鉄系超伝導体LaFeAsO1-xFxは、2008年に発見された超伝導体であり、銅酸化物に次いで高い超伝導転移温度を示すことが知られています。 超伝導転移温度は最大で55 K程度ですが、FeSeの単一層では100 Kを越える報告もあり、さらなる可能性を有している物質群です。 この物質群の結晶構造は、伝導層と絶縁層からなる層状構造を有しており、この特徴は銅酸化物超伝導体と類似しています。 さらに、銅酸化物とは異なり絶縁層を持たない物質も数多く存在しています。 LaFeAsOで構成される系は11-11(eleven-eleven)系と呼ばれており、絶縁層を持たない122(one-two-two)や11(one-one)系などが存在します。
私たちの研究室では、特に11系に着目した研究を行なっています。またこれまでには鉄系超伝導体の超伝導ギャップをトンネル分光の観点から明らかにしてきました。
✔ 硫化ビスマス系超伝導 (BiS2-based superconductor)
硫化ビスマス超伝導体LaO0.5F0.5BiS2は、2012年に発見された超伝導体です。 超伝導転移温度は最大でも10 K程度ですが、鉄系超伝導と類似した積層構造を有することから様々な研究がなされています。 (LaO)+の絶縁層と(BiS2)-の伝導層で構成させる結晶構造を有しており、そのままでは半導体的な振る舞いを示しますが、 キャリアーとしてフッ素(F)をドープすることで金属化し超伝導が発現することが知られています。 F以外にも様々な元素置換で超伝導化することが知られており、チタン(Ti)などの遷移金属でも超伝導が発現します。
この系の電子比熱は非常に小さく、さらに育成可能な単結晶も1.0 mm程度の小さい結晶しか育成できないため、比熱測定が非常に困難であることが知られています。 私たちの研究室では精密比熱装置の開発に取り組んでおり、これまで測定例のなかった比熱測定の観点から、この系の物質の超伝導対称性を初めて明らかにすることに成功しました。
さらに、1 GPa程度の比較的低い圧力印加によって超伝導転移温度が急激に上昇することが知られています。これは圧力による構造相転移のため、急激に電子状態が変化することが原因だと考えられています。
私たちの研究室ではこの特性に着目し、高圧下での物性研究を行い急激に上昇するTcの起源やその超伝導状態を明らかにするための研究を行っています。
✔ 遷移金属カルゴゲナイド (TrX superconductor)
エネルギー準位が高い軌道ほど、前後の電子軌道とのエネルギー準位が近くなるため、ほとんど縮退した状態になる場合があり、そのような場合にはパウリの排他率に従わない例外的な電子配置を取ります。 遷移金属ではそのような振る舞いが顕著であることから、様々な価数を持つことが知られています。 さらにAsやTeは、4p軌道のエネルギーが比較的浅く、組み合わせる元素に応じて様々な価数を取ることが知られています。 このように遷移金属とカルゴゲナイドに所属する元素で構成される化合物には、非常に多くの組み合わせが存在します。
私たちの研究室では遷移金属とカルゴゲナイドで構成された化合物に着目し、新しい超伝導体の発見を目指した研究を行っています。 その様な仮定で、HfTe3という超伝導と電荷密度波が共存する興味深い超伝導体を発見することに成功しました。