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  ✔ 【2017年12月】精密比熱測定から見たLaO0.5F0.5BiSSeの超伝導対称性

硫化ビスマス系化合物超伝導体は2012年に発見されてから、精力的に研究がなされています。 この化合物は鉄系超伝導体と類似した積層構造を有しており、様々なブロック層を持った超伝導/化合物が発見されています。 様々な測定手法によって超伝導対称性を明らかにする研究が行われていますが、物性研究において最も重要な物理量の一つである比熱測定はほとんど行われていませんでした。 その理由として考えられるのは、電子比熱が非常に小さく、さらに単結晶が1 mg程度と非常に小さいことから正確な測定が困難である点が挙げられます。 さらにFなどをドープをしているため、試料依存性が大きく、単一な試料を用いた測定でなければ本質を探るのは難しいことも要因です。 そこで我々は、非常に小さな結晶・比熱を有する物質でも精密な比熱測定が可能な装置を開発することによって、比熱測定の観点からこの系の超伝導対称性を明らかにしようと試みました。

図1、LaO0.5F0.5BiS2の結晶構造と開発した比熱セルの写真

図1は我々が開発に成功した精密比熱測定装置であり、ヒーターと温度計で試料を直接挟み込む構造になっています。 この装置を用いて比熱測定を行った結果が図2であり、黒がバックグラウンドを示しており、青/赤が全比熱(試料比熱とバックグラウンド)です。 この結果から試料比熱が最低温度でも十分にバックグラウンドより大きいことがわかります。 つまりこの装置を用いれば試料の重さが1 mg以下の単一の単結晶を用いた比熱測定から超伝導対称性を議論することが可能です。

図2、LaO0.5F0.5BiS2とLaO0.5F0.5BiSSeの比熱の生データの温度依存性

図3はLaO0.5F0.5BiSSeの電子比熱の温度依存性(C/T)です。 この結果より、明らかな比熱の飛びが観測され超伝導がバルク(本質)であることが分かります。 また温度依存性から等方的な超伝導ギャップの存在を示唆する振る舞いが得られました。 そこから見積もった超伝導ギャップの大きさは2d/kBTc = 4.5程度であり、これはSTMで観測された極めて大きな超伝導ギャップとは相反する結果です。 さらに、磁場依存性からH-linearの振る舞いが見られたことから、等方的な超伝導ギャップを示唆する結果が得られました。 温度依存性の最低温部を見ると僅かにupturnが見られますが、これはバックグラウンドの影響が僅かながら残ったことが原因です。 このupturnの存在は磁場依存性に悪影響を与えますが、値が磁場印加のよる比熱の増大と比べて無視できるほど小さいため、超伝導対称性を議論する上で問題ありません。

図3、LaO0.5F0.5BiSSeの電子比熱の温度依存性、挿入図はT = 0.5 Kにおける比熱の磁場依存性

本研究によって、硫化ビスマス超伝導体の超伝導対称性を比熱測定の観点から明らかにすることに初めて成功しました。また我々が開発した比熱セルは汎用性があり、これまで測定することが困難であった比熱の小さな試料に対し今後の研究において大きく活躍すると考えています。

本研究をまとめた論文はPhysical Review B誌に掲載されました。


論文情報
"Superconducting gap symmetry of the BiS2-based superconductor LaO0.5F0.5BiSSe elucidated through specific heat measurement"
Naoki Kase, Yusuke Terui, Tomohito Nakano, and Naoya Takeda
Physical Review B 96, (2017) 214506. (preprint: arXiv:1709.05992)


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