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研究成果 注目の論文

環境記憶統合 “注目の論文” No. 17 遺伝子抑制の解除装置を同定

  • 論文名
    Evolution of sequence-specific anti-silencing systems in Arabidopsis
    著者名(下線は環境記憶統合メンバー)
    *#Aoi Hosaka, #Raku Saito, Kazuya Takashima, Taku Sasaki, Yu Fu, Akira Kawabe, Tasuku Ito, Atsushi Toyoda, Asao Fujiyama, Yoshiaki Tarutani, and *Tetsuji Kakutani
    #These authors contributed equally to this work.
    雑誌名等
    Nature Communications, 8, 2161 (2017) (10 pages), doi: 10.1038/s41467-017-02150-7
    https://www.nature.com/articles/s41467-017-02150-7
    解説

    トランスポゾンとは宿主生物のゲノム中を移動したり、増幅したりできるDNA配列です。トランスポゾンの利己的なふるまいは宿主にとって潜在的に有害であるため、通常はDNAメチル化などのエピジェネティックな制御のもと抑制されています。しかし、シロイヌナズナのゲノムに存在するVANDAL21トランスポゾンがコードする遺伝子のうち、VANC21を野生型のシロイヌナズナに形質転換により発現させるとVANDAL21トランスポゾン特異的にDNAの低メチル化、転写の脱抑制、さらに転移が誘導されます(Fu et al. 2013)

    VANC21様遺伝子はVANDALファミリーに広く保存されています。そこで、我々はまずVANDAL6トランスポゾンがもつVANC21様遺伝子 (VANC6)を野生型に導入しました。その結果、VANC21と同様にVANDAL6および近縁なファミリーでDNAの低メチル化が誘導されました。従って、VANDALファミリーは宿主に対抗するためVANC遺伝子による配列特異的抗抑制系を獲得したと考えられます(図1)。

    図1."

    図1 植物はトランスポゾンのDNAをメチル化することで、これを抑制する。この抑制機構に対抗して、VANDAL21トランスポゾンはVANC21タンパク質を作り、その活性によって自身のDNAメチル化を除き、増殖する。一方、これと配列の似たトランスポゾンであるVANDAL6は、VANC6を作ることにより、自身のメチル化を除く。これらの抗抑制タンパク質とその標的配列は特異性を分化させるように進化している。

    次に我々はVANCによる標的認識機構を理解するためにVANC21タンパク質に対するChIP-seqを行いました。その結果、VANC21はVANDAL21トランスポゾンの遺伝子間領域、およびイントロンといったnon-coding領域に選択的に結合することがわかりました。VANC21の結合領域周辺では顕著にDNAメチル化が低下していたことから、VANC21は局所的な低メチル化を誘導すると考えられます。さらに我々はVANC21結合領域の配列解析、および生化学的な解析によりVANC21が9塩基のDNAモチーフに直接結合することを明らかにしました(図2)。

    図2."

    図2 VANC21はVANDAL21トランスポゾンのnon-coding領域に局在し、DNAの低メチル化を誘導する。

    興味深いことに、このモチーフはVANDAL21では高度に蓄積している一方、近縁なファミリーではほとんど観察されません。従って、VANCの標的モチーフは進化の過程で急速に蓄積、あるいは消失していると考えられます。そこでVANC21結合領域の配列をさらに調べたところ、VANC21の標的モチーフはタンデムリピート内部に存在していること、またこのタンデムリピートは進化の過程で増幅と消失を繰り返しており、これが急速なモチーフの配列多様化と蓄積の原因であることが示唆されました。

    これらの結果から、VANDALファミリーが持つ配列的抗抑制系はVANC遺伝子とその標的配列の共進化によりその配列特異性および多様性を獲得したと考えられます。
    エピジェネティックな制御はトランスポゾンの抑制だけでなく生物の発生にも重要な役割を果たしています。例えばDNAメチル化が維持できない変異体ではしばしば重篤な発生異常が観察されます。今回の発見は「利己的DNA」と考えられてきたトランスポゾンが、宿主の適応度を低下させずに、巧みな方法で速く進化し、増殖していることを示しています。
    今後は配列特異的抗抑制系の分子機構を明らかにするため遺伝学や生化学、構造生物学などを駆使してアプローチしていきたいと考えています。

    参考文献 Fu, Y. et al. Mobilization of a plant transposon by expression of the transposon-encoded anti-silencing factor. EMBO J. 32, 2407-17 (2013).