研究成果 注目の論文

環境記憶統合 “注目の論文” No. 7 植物が病原菌の感染を検知し、防御態勢を取る仕組みを解明

  • 論文名
    The Arabidopsis CERK1-associated kinase PBL27 connects chitin perception to MAPK activation
    著者名(下線は環境記憶統合メンバー)
    Kenta Yamada, Koji Yamaguchi, Tomomi Shirakawa, Hirofumi Nakagami, Akira Mine, Kazuya Ishikawa, Masayuki Fujiwara, Mari Narusaka, Yoshihiro Narusaka, Kazuya Ichimura, Yuka Kobayashi, Hidenori Matsui, Yuko Nomura, Mika Nomoto, Yasuomi Tada, Yoichiro Fukao, Tamo Fukamizo, Kenichi Tsuda, Ken Shirasu, Naoto Shibuya, and *Tsutomu Kawasaki
    雑誌名等
    The EMBO Journal, 35 (22), 2468-2483 (2016), doi: 10.15252/embj.201694248
    http://emboj.embopress.org/content/35/22/2468
    解説

    植物の細胞膜上には、病原菌の構成成分を分子パターンとして認識するパターン認識受容体が存在します。パターン認識受容体が病原菌の侵入を検知すると、その情報は細胞内に伝達され、多くの防御関連遺伝子の発現が誘導され、病原菌の増殖を抑制する免疫反応が誘導されます。これまでの多くの研究から、パターン認識受容体による病原菌認識により、防御関連遺伝子の発現が誘導される過程では、酵母から哺乳類に至る真核生物において主要な情報伝達経路として知られている、MAPK(Mitogen-activated protein kinase)経路が重要な役割を果たしていることがわかっていました
    (図1)。
    MAPK経路は、3つのタンパク質キナーゼ(MAPKKK- MAPKK- MAPK)によって構成され、MAPKが転写制御因子群をリン酸化することで防御関連遺伝子の発現が誘導されることが知られています。しかし、植物では、パターン認識受容体とMAPK経路を結ぶ分子が明らかになっておらず、植物科学に存在する「謎」の一つになっていました。今回、我々は、植物特有のタンパク質キナーゼであるRLCK(Receptor-like cytoplasmic kinase)ファミリーに属するPBL27が、パターン認識受容体とMAPK経路を直接的に結ぶ「橋渡し」の役目を果たしていることを明らかにしました(図1)。


    受容体様キナーゼであるCERK1は、真菌の構成成分であるキチンを検出するパターン認識受容体として働きます。これまでに、我々は、CERK1の細胞質キナーゼドメインに結合するPBL27を同定し、PBL27がキチンを認識したCERK1によってリン酸化されること、さらに、PBL27が、キチンに応答したMAPKの活性化を制御していることを明らかにし、PBL27がCERK1とMAPK経路を結ぶ因子である可能性が示唆されていました。今回、我々は、PBL27と相互作用するMAPKKK5を同定し、MAPKKK5がキチンに応答したMAPKの活性化を調節していることを明らかにしました(図2)。

    さらに、PBL27は、キチンを認識して活性化したCERK1によってリン酸化された時のみ、MAPKKK5をリン酸化し、そのリン酸化は、キチンに応答したMAPK (MPK3とMPK6)の活性化に必須であることを証明しました。さらに、PBL27とMAPKKK5の動態解析により、PBL27とMAPKKK5は細胞膜上で相互作用しているが(図3)、キチン応答に伴って解離し、その後、MAPKKK5が、MAPKKであるMKK4 / MKK5と細胞質で相互作用することを明らかにしました(図3)。また、MAPKKK5は、防御関連遺伝子群の発現を調節することで、病原菌に対する抵抗性を誘導していることもわかりました。
    以上の結果から、キチン認識からMAPKの活性化に至るタンパク質リン酸化リレー(CERK1→ PBL27→MAPKKK5→MKK4/MKK5→
    MPK3/MPK6)を発見し(図3)、世界で初めて、パターン認識受容体とMAPK経路を結ぶタンパク質として、PBL27を同定しました。

    植物の細胞表面には、数百?千個に上る受容体が存在し、その制御によりMAPK経路が活性化され、免疫以外にも、形態形成(気孔の形成や果実の離層形成)や環境応答など様々な生体反応が制御されます。したがって、RLCKファミリーのタンパク質が、受容体とMAPKを結ぶことを証明した本成果は、植物科学全般に大きな波及効果をもたらすことが期待されます。