天体の観測的研究
当研究室では,パルサーやブラックホール、銀河団など宇宙空間にある様々な 天体からの高いエネルギー光子(宇宙X線・γ線)を観測し,宇宙で実際におこっ ている高エネルギーの物理現象を探求しています.X線・軟γ線検出器の開発
現在、宇宙X線観測用の宇宙望遠鏡(X線天文衛星)に搭載するX線検出器として、X線CCDとX線CMOSの開発を行っています。 X線CCDは、2023年に打ち上げ予定のXRISM衛星に搭載します。また、X線CMOSは2030年度代に打ち上げを目指しているJEDI衛星に搭載します。 X線CMOSの開発について、Telescope Magazineに取材をして頂きましたので、是非、読んでみてください。X線CCDの開発
X線CCDは,Siの半導体を用いたX線検出用の検出器です.電磁波の中でもエネルギーの高い(波長の短い)X線を測定(検出)するためには,X線と物質との相互作用の1つである 光電効果を利用します.その物質が希ガスの場合は,比例計数管に代表されるガス型検出器というもので,近年では米国NASAのX線の偏光観測用のGEMもガス型検出器の1つである.一方,物質が半導体の場合は,X線CCDに代表される半導体型検出器である.X線CCDは,空乏層と電極層に分けられ,空乏層内でX線が光電吸収される際に,X線のエネルギーに比例した数の電荷を生じます (電子が生じる場合をN型半導体,ホールが生じる場合をP型半導体).この電荷は,電極に印可した電場で集めた後,電荷情報を電圧に変換し,各画素ごとに電気信号として読み出す仕組みとなっています. そのため,各画素に何個の電荷が発生したかという,X線の入射位置とX線のエネルギーとを同時に決めることができます(フォトンカウンティングができると言います).
X線CCDは日本の ASCA衛星に世界で初めて搭載されて以降,日本のSuzaku衛星, Hitomi衛星, 欧米のChandra衛星, XMM-Newton衛星などに搭載されており,今や,X線天文衛星にはなくてはならない2次元イメージャーとなっている.
当研究室では,2005年に打ち上げたSuzaku衛星に搭載したX線CCD(X-ray Imaging Spectrometer;XIS)を皮切りに,2016年に打ち上げたHitomi衛星のX線CCD(Soft X-ray Imager; SXI),さらに2023年打ち上げ予定のXRISM(X-ray Imaging and Spec-troscopy Mission)搭載X線CCD(Soft X-ray Imager;SXI)の開発を行っています.XISはMITのリンカーン研究所製のものでしたが,SXIからは大阪大学,京都大学,国立天文台と浜松ホトニクス社とで共同開発した国産のX線CCDです.
図1に示すのがSXI用のX線CCDの写真です.このX線CCDは1ピクセル(画素)の大きさが24um×24umで,1個のCCDは1280×1280の画素をもち(1.6Mpixelsということになります),それを4個 並べて大面積化を実現しています.
当研究室では,XRISM衛星搭載のSXIの開発も行っており,自分たちで開発したX線検出器を使った宇宙の観測に再チャレンジをします.XRISM用に新たに製作するX線CCDは, HitomiのSXIをベースとして性能向上のための改良を施す予定で,これから打ち上げまでの間に,X線CCDの性能(エネルギー分解能や検出感度(検出効率)など)の評価実験, 打ち上げ時のロケットの振動に耐えられるか振動への耐久試験,さらに宇宙空間では地上よりも放射線の線量が高く,その環境下でも性能を発揮するか耐久性の試験など,様々な試験・実験を行います.
検出感度の評価実験は,天体が放射するX線の強度を正しく測定するために必要な情報となります.評価実験は,茨城県つくば市の 高エネルギー観測機研究機構(KEK)の放射光施設(Photon Factory)で行っています.
XRPIXの開発
2030年代の打ち上げを目指しているJEDI衛星(右図)に搭載する2次元X線イメージャー(XRPIX)の基礎開発も行っています.
XRPIXもCCDと同様に半導体を用いたX線検出器で,SOI(Silicon-On-Insulator)技術を利用し,CMOSからなる回路層とSiからなる空乏層(センサー層)の間に
SiO2からなる絶縁層を挟み込んだ3層構造の半導体型検出器です(下図2参照).
CMOSの回路層には,1ピクセルの中アンプなどの集積回路が組み込まれており,CCDよりも電気信号処理にかかる時間が~数us以下と短い(時間分解能が高い)ことが特徴です.
一方,電気ノイズが大きく,CCDと比べ電気ノイズが大きい課題があります.これまでの我々の研究によって,電気ノイズを低減させ,図2の右図に示すように
劇的にエネルギー分解能が向上しています(図2の青色が赤色のスペクトルになり,細くなっている).
これまでのXRPIXの開発において,1ピクセル(30um×30um)の中でも,X線の光子が入射した場所によって,光電効果によって生じた電荷を収集する効率に斑があることを突き止め, 素子を改良しエネルギー分解能を向上させることに成功しています.この時の実験では,SPring8やKEK-PFにおいて自分達で作った実験装置を使用して,1ピクセルよりも十分に小さいサイズのX線のビームを XRPIXに照射しました.ビームの直径は人間の髪の毛の太さ(60~100um)より,1/10以上小さい直径(φ=4um)です(Negishi et al(2018)).
また,地上よりもはるかに放射線の強度が高い過酷な宇宙空間でXRPIXを使用するには,宇宙線に対する耐久性が求められます.私たちは,放射線医学総合研究所において重粒子線をXRPIXに照射することで 放射線に対する耐久性の評価を行っています.これまでのところ,宇宙空間でXRPIXを使って10年以上観測を続けても,X線を観測するための性能に影響がないということが分かりました(Yarita et al(2018)).
詳細は,文部科学省科学研究費補助金の新学術領域研究「3次元半導体検出器で切り拓く新たな量子イメージングの展開」などをご覧ください.