JRS-DBの概要

データベース構築試料

JRS-DBJapanese River Sediments Database - Heavy Element and Heavy Mineral Maps of Japan)」の開発には,産業技術総合研究所地質調査総合センター(産総研)の「元素の地球化学図」の作成に用いられた日本全国の土砂試料の3024点を用いた。 本試料は,日本全国の河川の本支流の合流付近において,支流の河床にある堆積物を採取したものである。 試料採取密度は約10×10 km2に1試料となるように採取されている。 主に河川(上流・中流・下流),河岸(自然・人造),橋下の河川の河床に堆積している細粒の川砂である河川堆積物であり,周辺地質を反映した重鉱物・重元素組成であると考えられる。 堆積物は採取後,自然乾燥を行い,磁石を用いて試料から磁鉄鉱などの明らかな磁性鉱物は除かれた。 その後80メッシュ(180 μm)の篩により,粒径を揃えた。 以上の操作は産総研により行われた。

重鉱物の分析手法:放射光粉末X線分析(SR-XRD)の概要

試料の前処理として,初めにおよそ5〜10 gの土砂試料を水で洗浄し,水よりも比重が小さい部分を取り除いた。 その後乾燥させ,遠心分離機を用いて重鉱物分離操作を行った。 分離には重液を用い,重液にはテトラブロモエタンをN,N-ジメチルホルムアミドで希釈し,密度を2.85 g/cm3に調整したものを用いた。 分離を行った重鉱物をめのう乳鉢で粉砕し,粒径を整えた後,0.3 mm径のガラスキャピラリに充填したものをSR-XRDの測定試料とした。 充填の際,超音波装置や振動装置を用いて十分に密に詰込を行い,最後に顕微鏡観察により詰まり具合を確認することで,測定試料の充填度は十分に高いものとなっている。

SR-XRDの測定風景

SR-XRDの全測定はSPring-8のBL19B2にて行った。 測定風景を図2に示す。 装置はデバイシェラー光学系で,カメラ長286.5 mmの大型デバイシェラーカメラを用い,X線回折データはイメージングプレート(IP)を用いて検出記録した。 本装置では,1枚のIPに連続して30試料のデータの記録が可能となっている。 照射X線は放射光をSi(111)の二結晶分光器を用いて波長1.0 オングストロームに単色化したものを用いている。 また,本装置の最大の特徴である全自動粉末X線回折測定システムは,ロボットアームが試料搭載板と試料測定用のωステージの試料の交換を全自動で行う。 測定試料のセンタリングについても全自動で位置調整が行われ,24時間で130試料もの迅速な測定を可能としている。 全てのSR-XRDの測定は大気下で行われ,ビームサイズは縦0.3 mm×横3.0 mm,露光時間は1試料につき10分とし,キャピラリを回転させながら測定した。

重元素の分析手法:高エネルギー放射光蛍光X線分析(HE-SR-XRF)の概要

HE-SR-XRFの測定風景

HE-SR-XRFの試料前処理はSR-XRDとは異なり,重液分離は行わずに基本的には粉砕のみで測定を行った。 手順としては,土砂試料数mgをめのう乳鉢で粉砕し,その粉砕試料を厚さ6 μmのポリプロピレン膜に封入し,3 cm径の穴が開いたアクリルホルダーに両面テープで固定したものを測定試料とした。

HE-SR-XRFの測定はSPring-8 BL08Wにて行った。 測定風景を図3に示す。 光源である楕円ウィグラー光からSi(400)二重湾曲結晶モノクロメータで116 keVの単色X線を取り出し,これを励起X線とした。 ビームサイズは四象限スリットで縦500 μm×横500 μmに成形し,検出器にはゲルマニウム半導体検出器(Ge-SSD)を用いて,試料から発生した蛍光X線が光軸と垂直になる位置にGe-SSDを設置した。 1試料ごとの測定時間は実効時間(Live Time)で600秒とし,試料を可動式XYステージ上に並べて固定することで,1度の測定で最大34試料の連続測定を行うことが可能である。 散乱によるバックグラウンドを低減するために鉛製コリメータを検出器に装着し,測定は全て大気下で行った。 なお,試料調製時に試料の充填量を厳密に揃えることはしておらず,X線照射点の指定時に検出器の不感時間(Dead Time)の割合を確認し,Dead Timeが約8 %になる場所に照射点を合わせることで,試料量のおおまかな均一性を保った。

データ解析

表1 HE-SR-XRFで定量した重元素 (20種)
元素名元素記号
ルビジウムRb
ストロンチウムSr
イットリウムY
ジルコニウムZr
スズSn
アンチモンSb
セシウムCs
バリウムBa
ランタンLa
セリウムCe
ネオジムNd
サマリウムSm
ガドリ二ウムGd
ジスプロシウムDy
エルビウムEr
イッテルビウムYb
ハフニウムHf
タングステンW
トリウムTh
ウランU

HE-SR-XRF

得られた蛍光X線スペクトルのうち,表1に示した20種の重元素について,各試料の重元素濃度を検量線法および感度係数法により定量した。 最終的にこれらの元素の濃度分布を日本地図上に重元素マップとして表した。 これらの重元素の組成が地質の特徴を反映することから,未知土砂試料の重元素組成と重元素マップを比較し,類似した重鉱物組成が示された場所が,推定される未知試料の起源となる。 各重元素の蛍光X線強度の算出においては,スペクトルの平滑化,バックグラウンド成分の除去,重複するピーク分離を行った。 蛍光X線のピーク形状はガウス関数として近似した。 またスペクトルの94.5 keV付近に検出される励起X線のコンプトン散乱線についても同様に強度を算出し,角重元素の蛍光X線ピーク強度の規格化に用いた。 重元素濃度の定量は,岩石標準試料,ガラス製標準物質および自作のガラス製標準試料を用いて作成した検量線により行った。

SR-XRD

日本の地質で広く見られる重鉱物は,20種あまり存在する。 表2に本研究で定量の対象とした22種の鉱物の一覧を示す。 参照試料として,これら22種の天然単一鉱物を準備し,データベース構築用の河川堆積物と同一の測定条件で測定し,参照となる単一重鉱物の回折データを得た。 さらに各河川堆積物について,これらの22種の鉱物の存在割合をX線回折強度から以下のよう見積もった。 まず各河川堆積物について得られた回折パターンのうち,2θ = 3 ~ 30°の範囲に着目して,範囲内の全ての回折線のd値とピーク強度を算出した。 重鉱物の同定は,単一重鉱物のd値と強度比を比較することにより行った。

一例として,図4に参照となる単相重鉱物(角閃石)と土砂試料(試料名:福島61006)の回折パターンを示した。 このように参照試料と比較することで,で示した回折線が角閃石の回折線であることが分かり,土砂試料に含有される鉱物を同定することが可能となる。 さらに同定された鉱物の特徴的な回折X線の強度を用い,以下のように半定量分析を行った。 着目するピークには基本的に各鉱物の最強線を用いたが,他の鉱物とのピーク重複によって最強線が利用できない場合には別の反射を用い,あらかじめ測定しておいた参照試料の実測回折線強度比から最強線の強度に換算するファクターを求めた。 各重鉱物について,参照試料の最強線強度を100%として,実測強度と比較することで,河川堆積物試料における着目重鉱物の存在量(%)を参照試料に対する強度比から求めた。

表2 SR-XRDで半定量を行った重鉱物 (22種)
鉱物名 (英名)鉱物名 (和名)化学式比重
Anatase鋭錐石TiO23.9
Biotite黒雲母K(Mg,Fe)3(Al,Fe3+)Si3O10(OH,F)22.5-3.0
Chlorite緑泥石(Mg,Fe,Mn,Ni)6-x-y(Al,Fe3+,Cr,Ti)yx(Si4-xAlx)4O10(OH)82.6-3.3
Diopside (CPX)透輝石 (単斜輝石)CaMgFeSi2O63.2-3.5
Enstatite (OPX)頑火輝石 (斜方輝石)(Mg,Fe)2Si2O63.2-4.0
Epidote緑簾石Ca2Fe3+Al2(Si2O7)(SiO4)O(OH)3.3-3.5
Garnet柘榴石Fe2+3Al2(SiO4)33.5-4.3
Hematite赤鉄鉱Fe2O35.0-5.3
Hornblende角閃石Ca2(Mg,Fe)4Al(AlSi7O22)(OH)22.9-3.5
Ilmeniteチタン鉄鉱FeTiO34.7-4.8
Kyanite藍晶石Al2SiO53.5-3.7
Muscovite白雲母KAl2(AlSi3)O10(OH)22.8-2.9
Olivine橄欖石Fe2SiO43.2-4.4
Rutile金紅石TiO24.2-4.4
Siderite菱鉄鉱FeCO33.8-4.0
Titaniteチタン石CaTiSiO53.4-3.6
ZirconジルコンZrSiO44.6-4.7
Apatite燐灰石Ca5(PO4)3(OH,F,Cl)3.1-3.3
Monaziteモナズ石CePO44.6-5.3
Sillimanite珪線石Al2SiO53.2-3.3
Spinel尖晶石MgAl2O43.5-4.1
Tourmaline電気石(Na,Ca)(Mg,Li,Al,Fe2+)3Al6(BO3)3Si6O18(OH)43.0-3.3
SR-XRDの回折パターンの例

分布図の作成

分布図の作成には地図作成ソフト(Environmental Systems Research Institute社製Arc Map 10)を用いて行った。 分布図を作るためには実試料の点と点の間を補間して,地図上全ての領域に近似的に数値を与える必要がある。 この内挿にはIDW(Inverse Distance Weighted)法を用いた。 IDW法では,距離の逆数を累乗した値が内挿値として与えられる。 本研究では逆数の2乗の値で,最近隣の12点を対象として影響を受けるように設定した。 分布図では,最大値を赤色,最小値を青色として,暖色から寒色のカラーバーで表示している。 なお,重元素組成は元素濃度(単位ppm)を示し,重鉱物組成は各重鉱物の相対的な存在量(%)を示している。 また,各分析において,河川堆積物中の重元素または重鉱物が検出下限を下回った場合には「N.D.(not detected)」とした。

重鉱物マップと重元素マップ

重鉱物マップの例として角閃石の分布を図5aに,重元素マップの例としてランタンLaの分布を図5bに示す。 また,地質図による珪長質深成岩類(花崗岩地質)の分布を図5cに示す。 これらの図の比較から分かるとおり,角閃石とLaは花崗岩地質の場所に多く存在しており,重鉱物と重元素の分布は地質とよく対応している。 このように分布図を用いることで,重鉱物と重元素の分布の地域的特徴を容易に把握できるので,法科学応用でも大変有用である。

本データベースの利用例