機能性分子集合体の創製Functional Molecular Assembly

機能性分子集合体の創製

(1) π共役強誘電性液晶の創出

 近年, 有機エレクロニクスに関する研究が広く行われ, 良好な半導体特性を示すπ共役化合物が数多く開発され, それらを用いた有機薄膜トランジスタや有機薄膜太陽電池, 有機発光ダイオードなどのデバイスについて, 多くの報告がされてきました. 従来の有機薄膜太陽電池の場合, ホール輸送性 (p型) の材料と電子輸送性 (n型) の材料を用意し, p-n接合によって局所電場を形成させるのが一般的ですが, 1 V を超える大きな開放電圧を示す材料系の報告は未だ少数に限られています. 我々は, 従来のp-n接合を必要とせず, 極性構造中に形成された内部電場に起因して生じるバルク光起電力効果という現象に注目し, 大きな出力電圧値を示す材料系の創出を目指して研究を進めています.

(2) 刺激応答性発光材料の創出

 π共役化合物は, 発光機能を示す材料としても注目されています. 溶液状態と液晶や結晶のような分子が集合した状態では, 発光性分子間の位置関係が異なり, 発光団の周囲環境には大きな違いがあることから, 吸光特性や発光特性に明確な差異として表れます. 溶液のように発光団を含む分子が溶媒に取り囲まれて孤立分散した条件での発光スペクトルと, 液晶構造や結晶構造のように分子が近接して会合体を形成した状態での発光スペクトルとでは, 発光極大波長やスペクトル形状に明確な違いを認めることができます. 入射光が発光過程へと導かれる効率 (発光量子収率) も大きく変化します. 近年, せん断応力のような機械的力学刺激により集合構造が変化し, 吸光特性や発光特性が劇的に変化するメカノクロミック材料が盛んに研究されています. 我々は, 機械的刺激のほか, 熱, 電場といった多様な外部刺激に応答して, 発光特性を大きく変化させ, 凝集状態でも良好な発光特性を示す材料系の創出にも取り組んでいます.

(3) 屈曲形π共役分子の集合構造制御

 屈曲形分子は, 分子自身はアキラルであっても, 自己集合した際にキラルな構造を形成しうることが知られています. また, 屈曲形分子の自己集合パターンは非常に複雑であり, 多様な集合構造を形成します. ロッド状分子は層状構造を, 円盤状分子や扇型分子はカラム状構造を形成することがほとんどですが, 屈曲形分子は層状構造とカラム状構造のいずれも形成しうる特徴があり, 集合構造内での屈曲部の配列に由来して, 複雑な副次相を発現します. 分子構造中に極性官能基を含む屈曲形液晶分子においては, 強誘電性や反強誘電性が報告されており, 物性, 機能の観点からも興味深いため, 注目されています. この研究は, 分子不斉をもたない屈曲形分子が形成する強誘電性液晶相に注目して, バルク光起電力効果を発現する材料系が創出できないかというアイディアがきっかけとなっています. 側鎖の末端構造を変えるだけで集合構造が劇的に変化し, 層状構造からなるマイクロテープやカラム状構造からなるナノファイバーの作り分けができるという結果が得られ, 現在は, 分子集合体のナノ構造制御の観点から研究を展開しています. 屈曲形の中心コアに適切な官能基修飾を行い, 非共有結合性の分子間相互作用による分子間架橋によってネットワーク構造が形成されるゲル化剤や複雑な構造をもつ液晶の創出に取り組んでいます.