部分多様体幾何とリー群作用2024

阿賀岡芳夫「左不変計量のリッチ曲率が満たす恒等式　--３次元の場合--」
prescribed Ricci curvature problem の左不変版に関する断片的な結果を紹介する。リー群上の左不変計量のリッチ曲率は一般にある種の恒等式を満たしていることが簡単な考察により分かるが、その正体は知られていなかった。この恒等式は、対称テンソル場がある計量に関するリッチ曲率となるための必要条件を与えるので、その具体的な形を知ることはprescribed curvature problemにおける重要な課題である。本講演では３次元のとき、solvable と unimodular それぞれの場合についてリッチ曲率の恒等式の具体的な形を紹介する。solvable のときはリッチ曲率の成分に関する９次式、unimodular のときは３次式が出現する。恒等式の証明には、リッチ曲率とリー代数の構造定数が成す空間の不変式が本質的な働きをするので、不変式とリー代数の成すvarietyについての解説も行う予定でいる。

井川治「複素旗多様体内の二つの実旗多様体の交叉，コンパクト対称三対の標準形とその応用」
複素旗多様体内の二つの実旗多様体の交叉が離散的になるための必要十分条件をこれまでに知られていたものより強い形で述べる．実旗多様体の離散的な交叉はあるWeyl群の軌道であり，複素旗多様体の「対蹠集合」になる．応用として，複素旗多様体内の実旗多様体は大域的タイトになることを示す．複素旗多様体と二つの実旗多様体の組は，コンパクト対称三対から構成されるが，出発点となるコンパクト対称三対を「標準的」なものにとれることを示す．この講演は，馬場蔵人，大野晋司，酒井高司，田崎博之との共同研究である．また，馬場蔵人との共同研究，入江博，奥田隆幸，酒井高司，田崎博之の内容を含む．

大野優「3次元naturally reductive等質空間の等質構造」
Naturally reductive 等質空間は，リーマン対称空間の一般化であり,原点を通る測地線がLie環の指数写像による作用の軌道になるという重要な性質を持つ. 特に, 3次元naturally reductive等質空間は, 等長群の次元が6または4であり, 完全に分類されている. 一方,リーマン多様体の等質性は，AmbroseとSingerによって，等質構造と呼ばれる特別なテンソルの存在によって特徴づけられている. さらに，特別な状況においては, 等質構造を用いることで，リーマン多様体の商空間表示を完全に分類できる. 本講演では，等長群の次元が4である3次元naturally reductive等質空間の等質構造を分類し, それを用いて商空間表示を決定したことを報告する. 特に，3次元特殊線形群$\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$の普遍被覆群について, 非自明な等質空間表示が存在した.

木村太郎「Cartan embeddings of compact Riemannian $k$-symmetric spaces」
$G$ をコンパクト連結リー群, $G$ の有限位数 $k$の自己同型写像を$\sigma$ とする. $K=\{ g \in G \mid \sigma(g)=g \}$ とおくとき, $\Psi: G \to G ; g \to g \sigma (g^{-1})$ は写像 $\Psi_{\sigma} : G/K \to G; g \to g \sigma (g^{-1})$ を引き起こす. この写像を Cartan 埋め込みという. また, $(G, K, \sigma)$ は $k$対称空間 $G/K$ を定める. $k=2$ のときは通常の意味での対称空間である. 本講演では, 有限位数 $k$の自己同型写像が引き起こすカルタン埋め込みの像が極小部分多様体になる条件を紹介し, カルタン埋め込みから決まる austere 部分多様体, 極小部分多様体, ２重調和部分多様体の分類結果を位数 $3,4$ について述べる. (極小部分多様体の分類結果は法政大学の間下克哉氏による).

古賀勇「複素射影空間を定義域とする同変調和写像について」
複素射影空間から複素グラスマン多様体への同変調和写像の分類問題を考える．これは複素射影空間上の等質ベクトル束，不変接続，切断の空間の組を分類することに帰着させることができる．これは高橋の定理（1953），do Carmo-Wallachの定理の一般化である．本講演ではまずこれらの理論を紹介し，応用として最近得られた一連の結果である終域が複素射影空間の場合のシンプレクティック群同変調和写像，四元数射影空間への特殊ユニタリ群同変調和写像の分類定理を紹介する．また，時間があれば非同変調和写像の分類結果として3次元球面から複素射影空間への全実調和写像の分類結果を紹介する．本講演は長友康行氏（明治大学）との共同研究に基づく．

佐藤雄一郎「概アーベルリー群上のリッチ平坦左不変ローレンツ計量」
リー群が概アーベルであるとは余次元1の可換正規部分群を持つことをいう。本講演では概アーベルリー群に対してリッチ平坦となる左不変ローレンツ計量の分類定理を説明する。応用として相対論における古典解の一つであるペトロフ解の高次元化に相当する真空解について紹介する。本講演は露木孝尚氏（北海道情報大学）との共同研究に基づくものである。

杉本恭司「擬Riemann対称$R$空間の対蹠集合」
1984年にH. Naitohにより, 対称$R$空間の自然な一般化として擬Riemann対称$R$空間が定義された. 本講演では, 半単純対称階別Lie代数に付随した擬Riemann対称$R$空間の極大対蹠集合がWeyl群の軌道として実現できることを紹介する.

服部広大「K3曲面の崩壊に付随する写像のエネルギーについて」
本講演では、Foscoloによって構成されたK3曲面上で崩壊する超ケーラー計量の族に伴う写像のエネルギーについて説明する。まず写像のホモトピー類に対するある不変量を導入し、それがエネルギーの下界を与えることを説明する。さらにFoscoloによって構成された超ケーラー計量の崩壊族に対しては、エネルギーの値がその不変量に近づくことを説明する。

藤井忍「対称Clifford系と実Grassmann多様体の部分カンドルについて」
対称Clifford系とは, 所定の関係式を満たす有限個の実対称行列の集合であり, Clifford代数の表現と1対1に対応することが知られている. 他にも対称Clifford系はOT-FKM型等径超曲面の構成に用いられることや, 2n次元Euclid空間内のn次元部分空間全体のなす実Grassmann多様体内の全測地的球面と対応することも知られており, 幾何学的にも重要な対象である. 本講演では, 対称Clifford系に付随する部分空間配置を定義し, この部分空間配置が或る (有向) 実Grassmann多様体のカンドル構造に対して素性のよい部分カンドルを生成すること, 極大s-可換部分集合とも関係があることを説明する.

田中真紀子「極大対蹠部分群と奇数次数の被覆準同型写像」
コンパクトLie群は両側不変Riemann計量によりRiemann対称空間である。Riemann対称空間の部分集合 S は、S の各点における点対称が S の恒等写像であるとき対蹠集合とよばれる。コンパクトLie群の単位元を含む極大対蹠集合は部分群で、これを極大対蹠部分群という。連結とは限らないコンパクトLie群の奇数次数の被覆準同型写像を通して、極大対蹠部分群はある意味不変なことを説明する。本講演の内容は田崎博之氏との共同研究に基づく。

部分多様体幾何とリー群作用2024

日時：2024年12月2日（月）～ 12月3日（火）

場所：東京理科大学神楽坂キャンパス森戸記念館第1フォーラム（B1階）

講演予定者（敬称略、五十音順）

プログラム［PDF(最終更新日：2024.11.28)］

12月2日

12月3日

タイトル・アブストラクト

井川治先生・田中真紀子先生のご還暦お祝い会

部分多様体幾何とリー群作用2024

日時：2024年12月2日（月）～ 12月3日（火）

場所：東京理科大学 神楽坂キャンパス 森戸記念館第1フォーラム（B1階）

講演予定者（敬称略、五十音順）

プログラム［PDF(最終更新日：2024.11.28)］

12月2日

12月3日

タイトル・アブストラクト

井川治先生・田中真紀子先生のご還暦お祝い会

場所：東京理科大学神楽坂キャンパス森戸記念館第1フォーラム（B1階）